中埜和男(和童)
幹候:8区隊 職種:通信科
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外人さんを
泣かせてしまった話
曽宮君の「腰を抜かしてもうダメかと思った話」を読んで、もう30年以上も昔、曽宮君と私が一緒に勤務をしていた頃の話を思い出した。 ある時、日米共同訓練が行われ、曽宮君が渉外(リエゾン)を担当し、私がその臨時スタッフになった。 そんなある日、曽宮君が米軍とのコミュニケーションを深めるために米軍のリエゾンを我々の宿舎に招いた。 この日は、彼の誕生日だった。 彼はモルモン教徒の温和な人で酒は飲まなかったが、故郷の話をしたりして盛り上がり、私が日米の軍隊ラッパの比較や「リパブリック賛歌」や「テネシーワルツ」など、思いつくままに尺八で吹いて楽しんでいた。 そして、最後に私が尺八で「Your cheatin' heart(君の偽りの心)」を吹いた。 この曲はウエスタン・ミュージックの最高の歌手ハンク・ウイリアムスが唄った名曲で、その後、エルビス・プレスリーやレイ・チャールスなどもカバーしている。 まだ進駐軍の文化が色濃く残る中で育った中埜少年は、中学生の頃、この曲や「Oh My Darling Clementine」などをギターかき鳴らしながら歌いまくっていた。
すると、聴いていた彼が涙を流し始めた。 私は尺八で名曲「Your cheatin' heart」を見事に吹いたので、彼を感動させてしまったのかなと思っていた。 後で曽宮君に聞くと、米軍リエゾンの彼はこの共同訓練の直前にベトナム人の奥さんと離婚したばかりで傷心の中にいたが、この演奏をしみじみと聞き、別れの辛さを思い出して涙を流してしまったとのことであった。 そんなこととは知らずに彼の痛い心に塩を擦り込み、泣かせてしまったとんだ迷演奏だった。
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